
歯並びが乱れる背景にある3つの要因と確認の視点
歯並びが乱れる原因は、親から受け継いだ顎や歯の大きさだけでなく、舌や口元の癖、むし歯で歯を早く失ったことなどが重なって生じます。
お子さんの生え替わりやご自身の口元の変化に気づいたとき、自分のせいではないかと一人で抱え込む必要はありません。この記事では、3つの原因が歯並びへ影響する仕組みと、子どもと大人で異なる確認のポイントを整理します。家庭で記録しておきたい変化や、歯科医院へ相談する目安もまとめました。
この記事の要点まとめ
- 歯の並び方には、あごの骨の形や癖、むし歯で乳歯を早くなくしたことが関わる場合があります。
- 子どもは生え替わりやあごの成長、大人は歯周病や歯をなくしたあとの変化を確かめます。
- 気づいた変化や生活の習慣を書きとめ、歯科医院で原因や対応について相談しましょう。
- 歯並びが乱れる原因は「生まれ持った特徴・日常の癖・歯の喪失」の3つに分けて考える
- 「むし歯や癖があれば歯並びは乱れる」は誤解|決めつけやすい3つの思い込み
- 子どもの生え替わり期と大人の歯並びの変化では、確認するところが違います
- 原因を自己判断せず歯科医院へ伝えるために、家庭で整理しておきたいことと相談の目安
- よくある質問
- 参考文献
- 監修
歯並びが乱れる原因は「生まれ持った特徴・日常の癖・歯の喪失」の3つに分けて考える

歯が並ぶ位置は、生まれ持った骨格の土台と、日々お口に加わる力、そして歯そのものの本数や配置によって決まります。どれか一つだけが原因とは限らず、複数の要素が少しずつ関わり合っているケースも少なくありません。
顎の大きさと歯の大きさの釣り合い:遺伝が関係する部分
歯並びの土台となる顎の骨の形や、歯そのものの横幅には、親から受け継ぐ遺伝的な特徴が関与します。顎が小さめであるにもかかわらず歯の横幅が大きいと、すべての歯が並ぶためのスペースが足りなくなり、前歯が重なったりねじれたりしやすくなります。逆に顎に対して歯が小さいと、すき間が空く原因になります。
また、上の前歯が出ている状態(出っ歯)や口元全体の突出感(口ゴボ)にも、上顎の骨格そのものが前に位置しているタイプと、骨格のずれは少なく前歯だけが前へ傾いているタイプがあります。これらは外から見ただけでは区別がつきにくく、親子で似た歯並びのように見えても、骨格と歯の傾きのどちらが主に関わっているかは一人ひとり異なります。
指しゃぶり・舌で歯を押す癖・口呼吸が歯列に与える力
歯は、外側から押さえる唇や頬の筋肉と、内側から押し広げる舌の力のつり合いがとれた場所に並びます。日常の癖によってこのバランスが崩れると、弱い力であっても毎日続くことで歯が少しずつ動いてしまいます。指しゃぶりやおしゃぶりなどの習慣は、上下の前歯が噛み合わない開咬(かいこう)が起こりやすくなることと関わりがあり、その起こりやすさは習慣によって差があります1。
鼻づまりなどで口が開いたままになる口呼吸が続くと、唇が前歯を内側へ押さえる力が弱まります。同時に、本来は上顎の天井に触れているはずの舌が低い位置に落ち込むと、歯列を内側から支える力が変わり、顎の成長や歯の傾きに影響しやすくなります。なお、上下の歯の間に舌を挟む癖のように、舌の癖は噛み合わせだけでなく発音に影響することもあります2。
むし歯で乳歯を早く失うと、隣の歯が倒れ込んで永久歯の場所が狭くなることがある
子どもの乳歯には、食べ物を噛むだけでなく、下から生えてくる永久歯のために場所を確保し、正しい位置へ導く役割があります。むし歯などが原因で、本来の生え替わりの時期よりも早く乳歯を抜くことになると、空いたすき間へ向かって両隣の歯が傾いたり移動したりすることがあります。
特に乳歯の奥歯を早く失うと、後ろにある奥歯が前の方へ寄ってくることがあり、後から生える犬歯や小臼歯のスペースが足りなくなる場合があります。その結果、押し出された影響が前の方へ伝わり、少し時間をおいてから前歯の重なりとして表れることもあります。
ポイント
歯並びの乱れは、顎と歯の大きさの釣り合い、口元の習慣による力の偏り、乳歯を早く失ったことによるスペース不足の3つが関わり合って生じます。
「むし歯や癖があれば歯並びは乱れる」は誤解|決めつけやすい3つの思い込み
原因となり得る要素があったとしても、それがそのまま歯並びの乱れに直結するわけではありません。家庭での様子だけで原因を一つに決めつけてしまう前に、よくある思い込みを整理しておきましょう。
誤解1:乳歯のむし歯や早期の抜歯があれば、歯並びは崩れる
乳歯を早く抜いたからといって、すべてのケースで永久歯の歯並びが乱れるとは限りません。影響の出方は、歯を失った年齢や部位、下にある永久歯がどのくらい育っているか、そして元々の顎にどの程度のゆとりがあるかによって大きく異なります。
すでに生え替わりが近い時期であれば、隣の歯が動く前に永久歯が顔を出すこともあります。また、抜歯のあとにすき間を保つための装置(保隙装置)を使うかどうかを含め、その後の経過は歯科医院で定期的に確認できます。「あのとき抜いたから」と過去の対応を責めるよりも、今のスペースの状態を診てもらうことに目を向けるほうが建設的です。
誤解2:テレビを見ているときに口が開いていたら口呼吸の癖
お子さんがテレビや本に集中しているとき、一時的にぽかんと口が開いている場面を見かけることは珍しくありません。しかし、その様子だけで慢性的な口呼吸や舌の癖があると判断するのは早計です。
口が開く背景には、唇を閉じる筋力の問題だけでなく、アレルギー性鼻炎や扁桃の肥大など鼻の通りにくさが隠れている場合もあります。その場でお子さんに何度も「口を閉じなさい」と注意するとお互いの負担になりやすいため、まずは「いつ・どんな場面で・どのくらい開いているか」を静かに観察して記録しておくほうが診察に役立ちます。
誤解3:親に似た歯並びなら遺伝だから仕方がない
ご自身と似た場所に前歯の重なりを見つけると、「遺伝だから仕方がない」と諦めてしまう方もいらっしゃいます。確かに顎の形や歯の大きさは受け継ぎやすい要素ですが、実際の歯並びは成長期の噛み方や呼吸、舌の位置といった後天的な環境とも重なり合って作られます。
たとえ骨格に似た傾向があったとしても、成長期のお子さんであれば、顎の発育を味方につけて土台を整えたり、悪習癖を見直したりする選択肢が検討できる場合があります。親子で見た目が似ていても原因の比重は異なるため、それぞれのお口の状態を別々に確認してもらう意味があります。
子どもの生え替わり期と大人の歯並びの変化では、確認するところが違います

成長の途中にあるお子さんと、顎の成長が終わっている大人とでは、歯が動く仕組みも診察で確認すべき点も異なります。年代ごとの特徴を分けて見ていきましょう。
| 確認の観点 | 子どもの生え替わり期(混合歯列期) | 大人の歯並びの変化(永久歯列期) |
|---|---|---|
| 主な背景 | 乳歯と永久歯の大きさの差、顎の成長途中、日常の癖、乳歯の早期喪失 | 歯周病による骨の変化、むし歯等による抜歯後の放置、親知らず、噛みしめ |
| 経過の見方 | 顎の成長とともに自然に並ぶ余地があるか、土台の誘導が必要かを見る | 歯ぐきや歯を支える骨の健康状態、噛み合わせのバランスを優先して確認する |
| 放置した際の影響 | 永久歯が生える場所の不足、噛み合わせのずれ、口元の癖の定着 | 隣の歯の傾斜や噛み合う歯の伸び出し、清掃性の低下、顎関節への負担 |
生え替わり中の前歯の重なり:成長とともに変わる場合と、相談しておきたい場合
小学生のころは、小さな乳歯から大きな永久歯へと生え替わっている途中です。とくに前歯は、大人の歯のほうが横はばが広いため、生えたばかりのころはしばらく重なったり、反対にまんなかにすき間ができたりすることがあります。これらは、あごの骨が育ち、横の歯が生え替わっていくうちに、しぜんに落ち着くこともあります。
一方で、乳歯の奥歯を早く失った箇所がある、年々重なりが強くなっている、上下の歯が逆に噛み合っている、口元の癖が続いているといった場合は注意が必要です。自然に並ぶ余地があるのか、それともスペースが足りないのかを、成長の段階に合わせて確認しておくことが判断の目安になります。
大人になってから歯並びが変わる要因:歯周病・歯の喪失・親知らず
大人になってから「昔の写真より前歯の重なりが目立つようになった」と感じる場合、遺伝や子どもの頃の癖以外の要因が関わっていることもあります。代表的なものが歯周病です。歯周病が進んで歯を支える骨が少しずつ減ると、噛む力や舌の力を支えきれなくなり、前歯が前へ傾いたり重なったりしやすくなります。
また、むし歯などで奥歯を失ったまま放置していると、両隣の歯が空いた場所へ倒れ込み、噛み合っていた反対側の歯が伸び出して全体の噛み合わせが変化します。長年の食いしばりや加齢によるお口周りの変化も大人の歯列を少しずつ動かす要因で、親知らずが手前の歯を押す力も関わるという考え方がありますが、その影響ははっきりしていません。大人の変化では、歯ぐきや歯を支える骨の状態を確認することが欠かせません。
下の前歯の乱れや噛み合わせのずれが、顎や発音に及ぼす影響
下の前歯は、お口の中で歯のサイズが小さく根も細いため、スペース不足や奥からの圧力のしわ寄せが表れやすい部位です。ここが重なって凸凹になると、歯ブラシできれいに磨きにくくなり、むし歯や歯周病になりやすくなります。
さらに、歯並びの乱れや噛み合わせのずれ(不正咬合)がある方では、顎関節の不調(顎関節症)がみられることがあります3。歯の並び方によっては空気が漏れて一部の音が発音しにくくなることもあり4、見た目の問題だけでなく、しっかり噛めることや顎の健康を守る視点からもお口全体を診ることが大切です。
ポイント
子どもは、あごの成長や生え替わりで、まだ並ぶゆとりがあるかを見ていきます。大人は、歯周病や歯を抜いたあとの変化など、歯を支える歯ぐきや骨の状態から確かめていきます。
原因を自己判断せず歯科医院へ伝えるために、家庭で整理しておきたいことと相談の目安
歯並びの変化に気づいても、すぐに矯正装置を付ける治療が始まるとは限りません。まずは何が原因で歯が動いているのかを知るために、家庭で気づいたことを整理して歯科医院へ伝えてみましょう。
受診前にメモしておくと伝わりやすいこと:抜歯の時期・口が開く場面・家族の歯並び
診察のときに普段の様子が伝わると、お口の中を見るだけでは分かりにくい背景を把握しやすくなります。受診の前に、次のような点をスマートフォンやメモ帳に書き留めておくとスムーズです。
- 歯をなくした時期と場所:乳歯や大人の歯をいつ抜いたか、自然に抜けたのか、むし歯で抜いたのか
- 口元の習慣と場面:口が開いている場面(テレビ視聴中、睡眠中など)、指しゃぶりや舌で歯を触る様子、いびきの有無
- 変化に気づいた時期と家族の傾向:いつ頃から重なりが目立つか(過去の写真と見比べて)、家族に似た歯並びや骨格の特徴があるか
お子さんに毎日注意を繰り返すより、こうした事実を観察して記録しておくほうが、親子の気持ちの負担も軽くなります。
歯科医院で原因を見分けるために確認すること
一般的な歯科医院の検査では、お口の中の診察に加えて、いくつかの機器を組み合わせて原因を切り分けていきます。頭部エックス線規格写真(セファロ)では顎の骨格のバランスや前歯の傾きを数値で測り、出っ歯や口ゴボが骨格によるものか歯の傾きによるものかを評価します。
さらに、パノラマレントゲンや歯科用CTで骨の中に控えている永久歯の位置や歯を支える骨の状態を調べ、口腔内スキャナーなどで上下の歯列の形や噛み合わせを立体的に確認します。これらを総合することで、骨格・歯の大きさ・癖・歯周病などのうち、どれが主に関わっているのかを見極めていきます。
相談を考えるタイミング:生え替わりの段階と大人の変化に気づいたとき
お子さんの場合、予定より早く乳歯を失ったとき、前歯が生え替わる6〜8歳頃、または口元の癖が気になるときが一つの目安です。小児矯正は、「Ⅰ期治療」と「Ⅱ期治療」に分けて考えるのが一般的です。
Ⅰ期治療では、乳歯と永久歯が混ざる時期に、あごの成長やバランス、癖に働きかけて土台を整えます。Ⅱ期治療では、永久歯が生えそろった後に歯の位置と噛み合わせを細かく整えます。生活習慣の見直しや経過観察で様子を見るか、装置を検討するかは成長スピードに合わせて判断されます。
大人の場合は、以前より前歯の重なりやすき間が目立ってきたとき、食べ物が噛みにくいと感じたとき、歯ぐきの腫れや出血があるときが相談のタイミングです。なお、歯並びを整える矯正治療は公的医療保険が適用されない自由診療となるのが一般的です。
よく見られる費用の目安は、子どものⅠ期治療で20万〜50万円ほど、大人の歯並び全体を整える矯正(ワイヤーやマウスピース型の装置)で60万〜120万円ほどと、はばがあります。当院で大人の歯並び全体を整える矯正は、おおよそ70万〜120万円ほどです。子どものⅠ期治療の金額はよく見られる目安で、当院の費用として示したものではありません。
実際の費用は治療内容によって変わります。また、矯正装置を付けたばかりのころは違和感や痛みが出ることがありますが、しばらくすると慣れることが多いです。ほかにも、歯の根が短くなる歯根吸収や治療後の後戻り、装置のまわりのむし歯や歯肉炎が起こることがあります。
親子で一緒に歯並びの相談をするときのポイント
当院へご相談いただく際は、お子さんの生え替わりの経過確認と、大人の方のむし歯や歯周病、噛み合わせの確認を合わせて相談しておくと、家族それぞれの原因に応じた見通しを立てやすくなります。
まずは「なぜ重なってきたのか原因を知りたい」「抜歯した場所のスペースが足りているか見てほしい」といった段階からでも構いません。当院の矯正相談は金曜午後と土曜に行っていますので、お仕事や学校の予定に合わせやすい日時を選び、メモした日常の様子を持参してご相談ください。
ポイント
受診前に抜歯の時期や口が開く場面をメモしておくと、骨格・歯の大きさ・癖のどれが関わっているかを診察で整理しやすくなります。
よくある質問
Q1. 歯の噛み合わせがずれる原因は何ですか?
A. 生まれ持った上下の顎の骨格のバランスや歯の大きさだけでなく、舌で歯を押す癖、口呼吸、頬杖、片側ばかりで噛む習慣などが関係します。また、子どもの場合はむし歯で乳歯を早く失ったこと、大人の場合は抜歯した部分をそのままにしていることや歯周病による歯の移動も、噛み合わせがずれる原因になります。
Q2. 下の歯並びが悪いのはなぜですか?
A. 下の前歯は他の歯に比べてサイズが小さく根も細いため、顎のスペース不足や周囲からの力の影響を受けやすい部位です。乳歯の奥歯を早く失って奥歯が前へ移動した影響が集まったり、大人になってから歯周病で骨が痩せたり、噛みしめの力が加わったりすることで、下の前歯に重なりが生じやすくなります。親知らずが関わるという考え方もありますが、その影響ははっきりしていません。
Q3. 歯並びを良くするにはどうしたらいいですか?自力で治せますか?
A. すでに重なったり傾いたりしている歯を、指で押すなどの自己流のやり方で動かすのはやめておきましょう。歯や歯ぐき、あごの関節をいためることがあります。口呼吸や頬杖などの習慣を見直すことは悪くなるのを防ぐのに役立ちますが、歯の位置を整えるには、歯科医院で骨格や歯の状態を調べたうえで、成長の段階や原因に合ったやり方を考える必要があります。
Q4. 相談に行ったら、すぐに矯正治療を始めなければいけませんか?
A. 相談や検査を受けたからといって、すぐに装置を使った治療が始まるわけではありません。お子さんの場合は生え替わりや顎の成長を待ちながら定期的に経過を見るケースもありますし、大人の場合は歯周病やむし歯の治療を優先することもあります。まずは現状と原因を知り、いつどのような対応が考えられるかを整理するための場としてご活用ください。
参考文献
1. Gao C, Wang M, He H et al. Association between Non-nutritive sucking habits and Anterior open bite: A systematic review and meta-analysis. BMC oral health (2025). PMID: 40619361 / DOI: 10.1186/s12903-025-06040-z
2. 歯科医療の現場から お口の健康と全身の健康の関係|お口と全身の健康を学べるWebマガジン|日本歯科医師会. https://www.jda.or.jp/happysmile/vol30/shikai/
3. Huang L, Xu Y, Xiao Z et al. Temporomandibular disorder prevalence in malocclusion patients: a meta-analysis. Head & face medicine (2025). PMID: 40011997 / DOI: 10.1186/s13005-025-00490-0
4. 日本歯科医師会「言語機能と構音障害 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020」 https://www.jda.or.jp/park/relation/language_02.html
昭和大学歯学部解剖学講座 入局 博士(歯学)授与
(公社)日本口腔インプラント学会専門医・指導医・代議員
(公社)日本歯科先端技術研究所理事・認定医・指導医
AOS Japan(インプラント・スタディーグループ) 理事
ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト
ITI Fellow.
日本顎咬合学会認定医
神奈川県小児歯科相談医
神奈川県障害者歯科医療担当医
綾瀬市介護認定審査委員
大和綾瀬歯科医師会 副会長
EAO Active Member
ITI Member
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